ADHDの心理療法【認知のゆがみ改善】

ADHD 心理療法 ライフハック

ADHDの治療には大きく分けて、薬物療法と心理療法があります。根本にあるADHDの症状(不注意・多動・衝動性)については、薬物療法で治療するのが効果的です。

しかし、ADHDから二次的に発生した心理的影響で、自己評価の低下や不安、うつなどがみられる場合、薬物療法のみでは不十分なことがあります。その人特有の「思考のくせ」によって、心理的ストレスが生じていることが多いからです。この「思考のくせ」を心理学用語で「認知のゆがみ」といいます。
心理的療法は、認知のゆがみを修正することで、心理的な問題を改善することを大きな目的としています。

ADHDにはどのような認知のゆがみがあり、心理療法を用いてどのように治療を行うのかについて説明します。

心理教育

心理療法はまず、患者が自身の疾患を「知る」「理解する」ことからスタートします。
ADHDを理解するためには、患者に対する心理教育(サイコエデュケーション)が重要になります。
心理教育は多くの精神疾患に対する治療において行われていますが、ADHDにおいても、ADHDの特徴や症状のあらわれ方について、患者に十分な説明を行うことが必要です。

さらに、患者本人にこれまでの人生における失敗経験を語ってもらい、ADHDの特性との関連について話し合うことが効果的です。
心理教育においては、ADHDについての知識を学ぶだけではなく、ADHDが患者の生活にどのような影響を与えているかを認識することで、これまでの人生におけるさまざまなトラブルが自分の「性格」や「怠け」によるものではなく、ADHDという「生物学的要因」が原因であることを認識することができるようになります。
このことが、今後の治療へのモチベーションにもつながっていきます。

ADHDの患者は、子どもの頃から失敗を繰り返してきた結果、自分自身を否定的に捉えている傾向が強いです。心理教育によって考え方を切り換え、新しい行動習慣や考え方を身に付けることは、生活面の改善にもつながりやすいのです。

認知のゆがみ

ADHDの治療薬は不注意、多動、衝動性などの臨床症状に対する有効性は高く、症状の改善をもたらしますが、これだけで必ずしも生活全般が改善するわけではありません。

ADHD患者は、さまざまな症状によって不適応状態になりがちですが、自分なりの「方法」で状況を乗り切っていることが多く、その自分なりの対処行動は認知のゆがみによってパターン化されているために、簡単に変えることはむずかしいのです。

ADHDでよく見られる認知面での問題点(認知のゆがみ)を以下に示します。

  • 過度の一般化
     特定のミスから一般的な結論を出したり、元々のミスと関係があろうがなかろうが、その結論を他の状況に適用すること。
  • 魔術的思考
     問題解決を、自分が制御できないこと(運など)に過度に頼ること
     (例)「適切な薬物療法を受けさえすれば、すべての問題を解決できる」
  • 相対的思考
     他人と比較して自分がどれほどうまくできているかで自分を評価する
     (例)「試験で時間を延長してもらう必要があるのはクラスで私だけだ。私は大学についていけないだろう。」
  • 公平さの誤認
     全ての点で人生は公平であるべきだという信念
     (例)「教科書を1章分読むのに、ルームメイトよりも時間がかかるなんて公平じゃない」)
  • 全か無か思考
     起きたことを二分して、黒か白かでみる傾向
     (例)「上司にいくつかの項目で指摘を受けた。私がやったことは全くダメに違いない」)
  • 読心術的推論・占い
     確固たる証拠もないのに、他人が当人を否定的に捉えており、状況が悪化するだろうと推論すること
     (例)「きっと同僚は私を信用できないと思っているだろう」
  • べき思考
     自分自身や行動の一側面に関する非現実的で非適応的な規則をつくる
     (例)「座ってじっくり考えることなく、即座にスケジュールの優先順位をつけるべきだ」「絶対ミスをしてはならない」
  • 不適切な非難
     不公平な自分や他者への叱責とその他の要因の見落とし
     (例)「彼女は私がADHDであることを理解すべきであって、デートをすっぽかしたことを怒るべきではない」

(参考:樋口輝彦『成人期ADHD診療ハンドブック』)

認知行動療法は、患者本人にこのような自らの認知面での問題点について自覚してもらい、そのパターンを変えるようにすることで、適切な対処行動を身に付けていこうとする心理療法です。
患者本人が自らの認知のゆがみと悪循環となっている行動パターンに気がつき、対処方法を治療者とともに考案する、といったサイクルを繰り返していくことが大切です。

ADHDの長期的な治療のゴールとしては、症状の改善のみならず、生活上の困難さを改善すること、さらには患者の能力を十分に発揮できるような状態をもたらすことが必要です。
特に、症状が慢性化し、社会的な不適応が長期にわたるケースにおいては、薬物療法のみでは十分ではなく、認知行動療法などの併用が望まれます。

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